2014-01-01から1年間の記事一覧

わかってきたことの少し

現代思想 2014年1月号 特集=現代思想の転回2014 ポスト・ポスト構造主義へ作者: 千葉雅也,中沢新一,村上靖彦,西村ユミ,大澤真幸,Q・メイヤスー,G・ハーマン,小泉義之,清水高志,近藤和敬,成田龍一出版社/メーカー: 青土社発売日: 2013/12/27メディア: ムック…

先生

ランドセルの内側にある宇宙は、冬の中ごろになれば澄んだすみれ色で染まるだろう。その季節じゅう、ぼくは公園で、縄跳びのできる女の子とジャンプをしていた。 車が公園の前の道路を走ってくるたびに、それとぼくたちの体が交わらないよう、高くまっすぐジ…

地獄の制作が貼りついた私の持続――白石晃士『ある優しき殺人者の記録』

A この映画を体験し終えた私たちの前には、ふたつの線の直交が見える。すなわち、①全編ノーカット映像で組み立てられたフェイクドキュメンタリー作品が、フェイクドキュメンタリーである根拠としての「これが私の現実と地続きであるはずがない」という判断…

頭の割れた媒体、宇宙からの石碑の質――「森のフシギ」は何でありうるのか?(大江健三郎とメディウム②)

同時代ゲーム (新潮文庫) 作者: 大江健三郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1984/08 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 32回 この商品を含むブログ (22件) を見る M/Tと森のフシギの物語 (岩波文庫) 作者: 大江健三郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日…

頭の割れた媒体、宇宙からの石碑の質(大江健三郎とメディウム①)

水死 (講談社文庫) 作者: 大江健三郎 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2012/12/14 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (2件) を見る 石に刻んだ文字だ。まだ、つむっている自分の目にそれは見えないが、それを見れば自分は打ちのめされて、老年に至った…

小説という霊の認識は、まるで偶然としてはできすぎた生命のように。――ポール・ド・マン、大江健三郎、生態心理学

本記事はnoteで投げ銭のかたちを設けつつ、置かれているものです。 小説という霊の認識は、まるで偶然としてはできすぎた生命のように。|hiroki_yamamoto+h|note A1 大江健三郎は、五〇年以上に及ぶ作家生活を通して、特異な小説技法を確立した小説家であ…

off/at

10年後の今日、午前4時。世界中が神さまの音という音に包まれて凍え死んでいたころ、彼らはわざわざ暖房の効いた小部屋から出て、給水塔すらないマンションの屋上に集まっていた。その9人の住人たちのうちのほとんどが、マンションに住みはじめてから一度も…

1992

引っ越してみて最初に気づいたのは、あの町に生まれた子どもがみんな、毎日あきることなく屋根の上を見つめていたということだった。 そのなかのひとりが、ある日、何かに気づいた様子で、家のなかへと入っていった。 子どものしゃべる声が、家のざらざらし…

大江健三郎を読むために/6つのメモ:『取り替え子(チェンジリング)』

取り替え子 (講談社文庫)作者: 大江健三郎,沼野充義出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/04/15メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 15回この商品を含むブログ (49件) を見る 1.『取り替え子』は、大江健三郎を模した作家、長江古義人を中心に書かれているも…

白石晃士『オカルト』

206日前にメモしたままほったらかしにされていたもの。オカルト [DVD]出版社/メーカー: クリエイティブアクザ発売日: 2009/07/24メディア: DVD クリック: 69回この商品を含むブログ (17件) を見る ローマ帝国で最初にキリスト教徒になったコンスタンティヌス…

第一幕 子どものころの少女と大人になった男の子の話が、ふたつの線路に挟まれることでようやくはじまる。時間は西暦2014年から、暑さと光の重みを勘違いするまで。

4年ぶりに歩いたすごく赤い草むらのわきの踏切で、「映画が撮れそうなんだよ」 とうれしそうなことを言うから、わたしはアカリが映画監督になってわたしがその映画を見るんだと思って、そうなればなにもかもがずっと忘れられずに世界に残ると思って、わたし…

ベンヤミンの歴史と大江健三郎の宇宙船

注:後日、新しくよいものを書きました。ヴァルター・ベンヤミン「歴史の概念について」 - describe, ベンヤミン・コレクション〈1〉近代の意味 (ちくま学芸文庫) 作者: ヴァルターベンヤミン,Walter Benjamin,浅井健二郎,久保哲司 出版社/メーカー: 筑摩書房…

公園

電車に乗っていたことだけが共通するとはいえ、時間も場所もまったく違うはずのぼくの前に、同じ出来事が生じるのだった。それは、一方が2012年、もう一方が2009年に、東京と愛媛の電車の座席にすわっていた両方のぼくの前にあらわれた。 夕方の4時半ごろ、…

発見について

小説において、重要なのは、「魂の発見」というか、魂を発見しないではいられない人間の能力の方じゃないか。対談「「聴き手」と「語り手」との共犯関係」いとうせいこう+渡部直己すばる 2014年 06月号 [雑誌]出版社/メーカー: 集英社発売日: 2014/05/07メデ…

S1

たった二千年前、ムクドリが冷たい風の年中吹く、せまい海の上にしか住んでいなかったころ、海では電車は船とともにしぶきをあげながら海面を渡り、太陽の光を反射して、プラスチックのように平坦に輝くしかなかった世界中の海にいつかは届くことになる波を…

10

尊敬できるものを並べて示すのが一番の自己紹介であると教えてもらいました。 なるべく少なく。 以下順不同、随時更新 1. 水死 (講談社文庫) 作者: 大江健三郎 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2012/12/14 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (2件) を見…

2014-05-03

赤ワインの染みを抜くための夜中の洗濯と、くるりの「ハローグッバイ」を聞きながらこれを書くことになる。 都会の、みんなよい街として名前を知っているらしい街のヤマダ電機で、地方にはないような商品区分の階層をたどり、ぼくたちは目的のイヤホンコーナ…

h_2012_8 お給料明細裏に

シリアで女性ジャーナリストがしんだニュースをよみながら 朝のさわやかな音楽がかかって その人のお父さんが泣いた映像が流れた。その人のさいごにとった映像と、その人がえがおで「転んじゃった」といってジップロックにテープをいれているえいぞうも流れ…

こつん わにのビスケットをおとしてもゆうれいのいぬのこない三時

早稲田大学文芸ジャーナリズム論系の発行している雑誌「蒼生」に、「こつん わにのビスケットをおとしてもゆうれいのいぬのこない三時」という長い題名の短編小説を、掲載していただきました。絵も描いていいということだったので、絵も描きました。蒼生 | …

東京国際文芸フェス、大江健三郎、アレクサンダル・ヘモン

東京国際文芸フェスでなんども作家と小説のそれぞれに含まれた事実のあいだにある関係について話される。なんども。「母親が生の最後まで彼女の世話をした妹を介して私に伝えた、最終的な和解の言葉があります。私がこれまでに書いた土地の神話=民話宇宙に…

ニューワイド歴史学

せんべいミューージック(Web)を更新しました。 ニューワイド歴史学 このとき、いもりは博物館にもいた。鉱物たちの壁に敷き詰められている部屋のすみからすみまで、光を内側に閉じこめてどこかまっすぐな方向へ引き伸ばしたり、七色にしたりする何百種類も…

柴崎友香『わたしがいなかった街で』

(※)2012年6月に書きました。今日ではありません。 ここ最近、ぼくは「おもしろくない人の書いたものは結局おもしろくない気がする」とまわりの人に言うのは誤解を招くと思う。別にそれは天才がどうとかいう話じゃないのが伝わらない。物事の抽出と因果関係…

まちについての覚え書き、忘れる前に。

2月8日。街に大変な雪が降っていた。 雪の次の日は、雨音と子どもの追いかけまわる声が聞こえた。ドラえもんも、雪だるまも、公園にいた。なにもかもが平さを覆うように街に増えていた。なによりしなった枝が増えた。雪も風も一番強まるだろうと言われていた…

2000

ステゴサウルスの帽子をかぶった男の子は1998年に生まれ2016年に死んだ。これから先の人生がキーボードのように拾われていきますように――彼と仲のよかった1999年1月生まれの女の子は自分の14歳だったころに思いついてiPhoneのなかにメモしておいたその言葉を…

あのようなものにせっせとかかわっていないで、おやつをもらいました。⑴

目の前を走るザトウクジラが、立派な四本足でタクシーを二台踏み潰していく。男の子の乗る赤いきらきらした自転車は、蛇行するかばの格好に仮装した二トントラックが弾き飛ばし、男の子に直撃された信号機は、乾いた肋骨を両手でゆっくりと体重をかけつつ折…

新しいホームページと、公開した4つの小説について

新しいものとしてのホームページを立ち上げました。 hiroki_yamamoto+h これからしばらくを書けてぼくはこのページを拡張していくように考えています。 また、それにともない、4つの小説をそのサイト上で公開しました。 以下が4つです。 1つめ:pot hole …