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「神さまのところに血のついた矢がもどってきたの、なんじゃこりゃあと思ってよく見たら、自分たちのつかわしたキジの血がついてたのね」

手塚夏子さんのトレースに関するワークショップに参加した際に作成した、10秒ほどの動きと発話の描写です。

http://www.bonus.dance/creation/35/

細かく記述するなかで体の節々のつながりがばらばらになる感じがして居心地が悪くなって呼吸がうまくできなくなっておしっこにいきたくなったこと、とても何気ない発話(言語)と身振りがおそらく本人も知らないだろう細部で連動してしまっているように感じられはじめたこと、その連動を軸にもういちど描写を組み立てることでなにかものまねの「本当らしさ」に近づける気がしたこと、こうした描写は小説においてはどちらかというと風景描写よりも語りの作成に近いだろうこと、とかを、考えました。特に、発話と身振り、身振りと(別の部位の)身振り、の間の連動のありようが、記述すればするほど見えてきてしまうことに、ありふれた話ではあるのだろうけれど、ショックを受けた。

 

 

基本の姿勢

椅子に座る。背もたれに軽くもたれかかるような感じで、終始全身の力が抜け、リラックスしている。ひざとひざのあいだは少しあけ、両足はつまさきで地面と接する。両足が地面と接する位置を、体の軸から見てすこし左にずらす。さらに、ひざを曲げて、椅子の座面をはさむようなかたちにして、両足と地面の接する位置を、あまりつらくない程度に座面の下にまでずらす。その状態で、左足のかかとを右足のつちふまずにくっつける。そのとき左足だけ、つま先だけでなく足指のつけねの部分でも地面で接するようにして、やはり体勢としてつらくないように、体の重心を背中にかける(つま先で体を支えようとしない)。
両手は、ともに、左手は左太ももの、右手は右太ももの、それぞれ付け根を手のひらで包むように、置く。右手は、薬指と小指が離れるかたちで伸び、それぞれ太ももを、指の側面で触っている。小指の方がまっすぐのび、薬指はすこしまがっている。中指と人差し指は、かるく握られている。その握られた人差し指の第二関節の上に、左手の親指がのせられる。右手の中指と人差し指が曲がったスペースに、親指以外の四本が並んでいる。
視線は、正面やや下、曲がった膝よりも15センチほど奥を見ている。
右手前方に、自分の言葉と身振りで説明する相手が、座っているのではなく立っている。今はまだそちらを見ないが、このあとは、たまにそちらを見上げながら、話す。

 

動き
以下、「神さまのところに血のついた矢がもどってきたの、なんじゃこりゃあと思ってよく見たら、自分たちのつかわしたキジの血がついてたのね」
まず、「かみさまのところに」と言いながら、両手ともに、親指の先を、中指の先と人差し指の先のあいだにくっつけ、輪をつくる。そうしてできたふたつの輪を、両手同士の指先でさらにくっつけ、八の字にする。3回ほど、それぞれのゆびさきがこちょこちょと動かされる。
次に「ちのついた」と言いながら、右肘の高さをほとんど動かさずに、ひじを、無理せずまげられるところまでまっすぐ、地面と垂直に手が挙がるようにまげる。「た」のところで、曲げはとまる。このとき、上昇してくる右手は、さっきまでの輪を維持しつつ、親指の先だけが、人差し指の側面、第一関節のあたりにまでずれ、単なる輪っかから、なにか棒のようなものを握っているようなかたちになる。手首はすこしだらんとしている。右手が上昇するとき、視界のなかへ右手が入り込んでくるかたちになる。腹のあたりまで右手があがったとき、右手に視線が紐付けられ、視線はそのまま右手を見つめながら上昇する。右手があがりきったときに、視線もあがりきり、右手の向こう側にいる話し相手の顔に、視線が向かう。左手は、右手に離れられたことで、右手と人差し指と中指の輪も解かれ、親指の先が、人差し指の第二関節、その曲がる内側にそえられる。ここまでが、「ちのついた」。
次に、「やが」と言いながら、右手で、十五センチ下あたりの空中を上からノックするように、手の甲をだらんと落とす。落としながら、頭は左にすこし傾ける。
さらに続けて「もどって」と言いながら、落とした右手をふたたびもとの高さにまであげる。
次に、「きたの」と言いながら、右手は「き」と「た」のタイミングで合計2回、今度はすぐ下あたりの空間を叩く。「き」よりも「た」の方がほんのすこし低い、左側のところを叩く。そして「の」のところで、すこし体の手前へ引きつけながら、軽く握られた手のひらの内側が自分に見えるような角度、つまり親指と人差指のつくる輪を、話している相手にすこし見せるような角度で、止まる。また、左手は、「き」と発音されるタイミングで、左手の人差し指が、すこし伸びて、ゆるくなにかを指差しているようになる。ここまでが、「やがもどってきたの」。
その時点で、1秒黙る。そのあいだ、右手の人差指の、第二関節が、すこし手の甲のほうへ動く。
次に、「なんじゃ」と言いながら、右手は15センチほど上、話している相手の顔と自分の顔のあいだにくるような高さまで持ち上げられるのだが、そのとき手首は、親指と人差指のつくる輪が天井をむくように、少し左回転させられる。右手が上昇するにつれて、頭が、左に傾いていたのをまっすぐにもどされる。右手が上昇しきるのと、頭がまっすぐにもどりきるのが同時。
「こりゃあ」と言いながら、右手にできている輪を、自分の顔の方に向けるよう手首をさらに回転させる。
そして、「と思って」と言いながら、右手は、ストンと右太ももの上に落ちていって、跳ね、ふとももの付け根にそえられたままの左手のそば、左手よりもお腹から離れた膝側に着地する。その瞬間、すこし伸びていた左手の人差し指が、ほんのすこし曲がり、中指など他の指の位置に近づく。でも、親指と人差指が輪を作るところまでは曲がらず、お互いの指先はひらいたまま。かわりに中指の先が、親指の先とくっつき、輪をつくる。中指の先は、親指の腹を、指先から第一関節までさするように、しばらく往復している。このとき、中指だけが曲がり、人差し指は曲がらない。ここまでが、「なんじゃこりゃあと思って」。
次に、「よく見たら」といい始めながら、右手がふたたび持ち上がろうとする。すぐに視線が、立っている相手の顔から離れ、自分の右手に移る。右手は胸のあたりまで上がる。上がりきると同時に、親指の先が人差し指の第二関節側面にまでスライドし、右手にできた輪は消える。視線は親指の爪を見つめ、親指の爪と見つめ合うようになる。
次に右手は、「自分」と言いながら、手の甲が上に来るようにすこしまたひねりながら、みぞおちのあたりの高さ、十五センチほど胴体から離れた空中をたたく。その振り下ろしの反動を受けるように頭はすこし後ろに反り、左手は、中指が親指からはなれて大きく手の甲の側へ引っ張られ、それにつられて親指以外の指もすこしだけひっぱられ、結果として左手の手のひらが軽く開く。
そして「たちの」と言いながら、右手は、ふたたび親指を天に向けるように右回りにひねられつつ、もといたふとももの付け根の位置に着地する。視線も右手を見つめたままなので落ちるが、頭はすこし後ろに反ったまま。右手の着地したその瞬間、左手の手首が内側にまがり、中指を含め親指以外の四本もまた、内側にむけて曲がる。その曲がりにあわせるようにして、あるいは視線に遅れてついていくようにして、頭が手前にかたむき、顔がすこしうつむく。
次に、すぐに左手の手首は曲がった状態をやめ(曲げた反動で跳ね返るように)、「つかわした」といいながら、なにかを飛ばすようなスナップをきかせつつ、手首は伸びる。
さらに、「キジの」と言いながら、左手はすこし親指の爪を天へ向かせるように手首が左回りにひねられつつ、ふとももとふとももの間にできた空間へと左手は投げだされ、手首と太ももがぶつかることでとまる。その衝撃で、親指が人差し指の方へ落ち、人差し指の先と親指の先が、くっつく。このあいだ、右手は人差し指がすこし手の甲の側へ引っ張られるが、親指の先と人差し指の先はまだくっついたままでいる。
左手が、すこし親指と人差指を離しながら、手の甲の側へと手首が曲がり、右手と左手が同じ高さになる。この手首の曲がりにおくれてついていくように、左足のかかとが右足の裏から離れ、つま先も地面から離れる。この瞬間、「ちが」と言いはじめる。
左手の親指の先と人差指の先がふたたびくっつき、右手の親指人差し指の先とさらにくっつき、また8の字ができる。その8の字ができた瞬間にあわせて、左足裏の、親指の付け根にある大きな関節が、右足の親指の上にのる。その瞬間、「ついてたのね」と言いはじめる。左足のかかとが背後の方へ引きつつ、左足の親指が、右足親指を包むように降りる。「ついてたのね」の「ね」を発した瞬間、視線が、話している相手の顔の方を向く。ここまでが、「自分たちのつかわしたキジのちがついてたのね」。
右足親指を包むように降りた左足親指につられて、そのまま左足は右足をはうように右足からずり落ち、かかとだけがあがったまま床に着地する。左足のずり落ちにあわせて、右足は、足の指の腹で地面と接していたのが、左足によってすこし押され、小指と薬指が地面との間で内側に曲がり、右足は指の爪の側で地面と接するようになる。