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「宇宙を練習したい」

すこしむかしの新聞紙に書いたやつ


 子どもたちは、たくさんのとんぼが入った虫かごを片手に、図鑑をめくっている。節のついた細長い胴体が、少しずつ膨らみ、すばやく動く六本の手足と、石油でできたような羽、とても重たそうな目をふたつもつけている。「地球上で最初のとんぼは、二億五〇〇〇万年前の化石として知られています。」
 二億五〇〇〇万年前! そんなあふれんばかりの時間を、たった十数年しか生きていないぼくらが、目の前でかけ飛びまわる虫たちの姿から感じとるための手段。それは、図鑑をめくること……そして、進化について学ぶこと。❶『進化とは何か ドーキンス博士の特別講義』は、世界的に有名な生物学者が行った、子どもたちのためのクリスマス・レクチャーをまとめた本。映像や模型、楽しい実験をふんだんに盛りこみながら、ゲームでよく見るような、強さばかりを追い求める進化とはちがう、宇宙で生きるための試行錯誤としての進化を教えてくれる。ぼくらはドーキンスさんのもとで、ひとりの科学者になる。
 でも、科学者ってなんだろう。世の中を便利にしていく人たちのこと? いやいや、もっとすごいんだって知らせてくれるのが❷『ドミトリーともきんす』。「科学を勉強する学生さん大歓迎」という看板の掲げられた、ちょっと変わった学生寮で暮らしているのは、若き日の偉大な科学者たち。寮母のともこさんのおかげでぼくらに身近になった彼らは、降ってくる雪を手紙として読み、窓から差し込む雨上がりの日差しに感激する。「ともきんす」の寮生のひとりである湯川秀樹さんは言う。「詩と科学遠いようで近い。(…)どちらも自然を見ること聞くことからはじまる。」
 なるほど、科学をする人たちは、小難しい理論や正解よりも、公園や山にいる一匹一匹の生きものたちや、植物、地面や空との接し方こそを、知っている。すると、詩で科学をしてしまう人たちだっているはずだ。そのひとりが、宮沢賢治さん。❸『宮沢賢治詩集』。思えば「銀河鉄道の夜」だって、理科の授業の場面からはじまっていた。鉱物や幾何学、地層や太陽系にまで親しむ言葉たちを読むと、ぼくらだって、冬空の下で草むらに頭をつっこみながら詩を作ろう、宇宙のなかでどんどん練習してみよう、そんな気持ちになる。
 そういえば、湯川さんはこうも言っていた。「詩と科学とは同じ場所から出発したばかりではなく、行きつく先も同じなのではなかろうか。」進化するぼくらはいったいどこに行くんだろう。


進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義

進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義

ドミトリーともきんす

ドミトリーともきんす

宮沢賢治詩集 (岩波文庫)

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