そのアウグスティヌスは、次のように書く準備をしながら、冬に降りる星空の細やかさに照らされつつ、夜中を歩いていた――こうして私は記憶と理解と意志を持っていることを私は記憶している。私が理解し記憶していることを理解している。私が意志し記憶し理解…

2013-10-20

幽霊がいる世界はきっと幽霊を見てもすぐに忘れてしまう世界だ。人が八十歳で死ぬ直前に生まれたとしても、それはそれとして生まれてから死ぬまでの新たな過去の系列が生まれている。因果律はほつれてまた固まる。なぜなら死への恐怖の強さはその対象への常…

hさんの先生にいわれたぶんしょう

「スサノヲはイザナキが黄泉の国から帰り、鼻をすすいだときに生まれた神で、同じ時に右目から生まれたアマテラスの姉弟にあたる。スサノヲは父であるイザナキに海を治めることを命じられるが、ははの国へいきたいといって泣いているばかりだったので追放さ…

2013-10-14

ほら話に対しての許容ができたというよりそれを許容できるくらいにそれを話すぼくよりも大きな地点にあることができるようになったか。自分の書く運動の持つ重大さを、音やリズムや極端な一人称に頼ることによってカバーするのではなく、書いた事物そのもの…

2013-10-05

保坂さんが純文学で売れていて文芸評論的読みがしやすい謎解きができるものの系列に大江健三郎を入れるのはそれは同時代ゲームくらいからすでに当てはまらない気がする。 それこそおかしいのが、小説にテーマはいらないと一般に要約されがちな保坂和志の思想…

2013-10-03

お父さんスイッチ「か」かたみの狭い化石ほりお父さんスイッチ「き」きりんの首についた火薬を見たお父さんスイッチ「く」くらしあんぜん足がないお父さんスイッチ「け」毛のない犬の夢を見るお父さんスイッチ「こ」交換留学生が家に多すぎる*風景によって…

『二百年の子供』

(大江健三郎『二百年の子供』に関しての別解です。もうひとつは早稲田文学⑥に)『同時代ゲーム』の末尾で、「無限に近い空間×時間のユニット」を一望する宇宙船を描いた著者が、「私の唯一のファンタジー」とする本作で新たに提示したタイムマシンは、ファ…

2013-09-21

今日は朝から神輿の音がした。外を見てみると、子どもたちがちょうど通りかかって、何メートルもある紐を抱え、連なっていた。後ろのほうから大人が「おーい、とまれ!とまれって!」と叫び、子どもたちが紐をおろす。しばらくして、白いワゴン車が紐の横を…

2013-09-20

ぼくは定期的にホルモンバランスが崩れると言ってもホルモンってなんなのか。ホルモンがなんなのかはGoogleで検索でもすれば体力さえあれば情報は読めるけれど、ホルモンバランスが崩れるから精神安定剤を飲んだり、吐き気がしたり、肌が荒れたり、ずっと疲…

「Puffer Train」を書いていたころに書いたものです 言葉はそれを発する人間の認知構造を通過して排出されるが、ならば小説における視点は、語り手の統一性という、有機物的な安心のための時間の流れを、書くという動作の段階からして裁断し続ける。量子力学…

「次回予告」

せんべいミューージック ★ 外は雨まみれ、近所のダムはすぐ干上がるくせにいざ強い雨が降るとすぐに満杯になってサイレンをウーオー鳴らし川を爆発させる。 ★ 『砂漠ダンス』とてもよかった。見えるものが変わる文体がある。そして読むにおいて「わたし」と…

早稲田文学6号に、

早稲田文学6号に、『二百年の子供』に関する文章を寄稿しました。 「大江健三郎(ほぼ)全小説解題」という企画で、近藤聡乃さんや、いしいしんじさん、青木淳悟さんなど、すごい方々がそろって大江作品について書かれているのですが、その並びのなかで書か…

栄養学の測定

19歳のときに書いたものです。 人は雑食と言われる。もちろん必要な栄養やその量は様々な客観的理由から定められてはいるものの、それを完全になぞらえる生活を送っている者はおらず、なぞらえようとする者さえ少ない。身体に害を与えるであろう多さの栄養を…

Puffer Train

http://p.booklog.jp/book/73331 2012年3月~2013年3月 以上の期間に書かれていた「Puffer Train」(168000字)を公開しました。 前回のエントリで予告していた改稿版ではありません。 改稿しているなかで、「これは改良というよりかは、まったく別のものに…

近況:第56回群像新人文学賞について

第56回群像新人文学賞の小説部門で、最終選考候補作三作のうちの一作に選ばれ、落選しました。2013年5月7日発売の「群像」6月号に選評が掲載されています。 * 今回応募したのは、「Puffer Train」(原稿用紙換算枚数250枚)でした。 当時、400枚ほどでの完…

2012-12-05

たとえば「している」と「しているらしい」のちがい。現在と過去。推測は過去なのか?いや、推測は他者を通過し、わたしに帰ってくるという時間のずれをもたらし、情報を遅延させる……仮定はどうか?「もし」と言ったとき、「もし」でない現実もあらわしてし…

2012-11-13

「日常的思考の演算が、主文の主述結合にしか規定されないのは、それ以外の関係節的な部分は、他者から与えられた言葉としての確実性、一挙性としての権利をもたされるからです。言語によって思考する時、真偽判断は主述結合の可・不可という一挙的瞬間性に…

2012-10-20

カフカのあの内分裂、書き手がその時々の、ひとりひとりに憑依しながら、別の時間に書かれた言葉や、他の人物に対して絶えず驚きを感じながら、つまりすべてが断片でありながら、長編が書かれるあのSFと見紛うまでの異常な生き方……SF小説がなんであんなに書…

最近のワンカット(さめないゆめ)

エビは次の日の朝にも机の上に逃げだしていたから指でつまんで水面に落とすと、くるくるとまわりながら水草に引っかかって逆さまになり、飛び出す瞬間が見たいわたしは眠りづらくなってきたけれど、カズナはそれでも帰ってこない。また失敗した! エビは空に…

2012-10-13

『POV〜呪われたフィルム』は、本当にすごいというか、物語にしても演出にしてもこれまでのJホラーの総決算みたいな感じだし、メタメタメタ・フィクションみたいな感じだし、といってわけがわからなくなりすぎるということもなく、というか、わけがわからな…

2012-08-07

「なんでも持って行っていいですよ」 「じゃあ、ハンガーとフランスパンを」 * TSUTAYAの郵便返却の袋の中にあった前の人のレシートが、近親相姦のアダルトビデオと、60年前の戦争映画だった。旧作値引きされているからシニアの人だった。 * 夏の昼間って、…

2012-07-25

一時間に一回の巨大な頭痛は、残りの59分59秒を怯えさせる。 * 細胞のひとつひとつが別れるその境界に言葉が入り込んでくる。それによってぼくは複数になるけれどぼくは拍手もしないし声も出さない。ただジャムのにおいがするって言うだけで、ぼくは場の運…

2012-07-13

主語のない描写によって描写が行われた後、語り手であるはずのわたしがそこにいないことがわかれば、わたしは曖昧に一元化されたわたしではなく、具体的に内部分裂したわたしに変化する。それは「わたしは」という主語によって書かれた文章のもつ因果律を語…

2012-06-16

明示された語り手と、具体性を持った記述、それこそ句読点に正しく区切られた文章が、階層を作るということは上への階段もまた作る。そこを登るかどうかは書き手の肉体的な認知のレベルに依存するものの、小説が最も媒体として得意とするのはその上昇にある…

2012-06-04

くじらが人間の手足を持つなら山に住むのか海に住むのかを考え、何匹かのくじらは山に住むことにしたけれどほとんどのくじらは海にいた。 港ではその日は漁が打ち止められて船はすべてくじらのために道を開き、朝から学校の休みになった子どもたちが海岸線に…

~2012-06-02

「お前はもうこれだけ生きた」と16年前の写真にうつるぼくの後ろの壁に貼りつけてある母親の写真を覚えているぼくに言われる。 * 生まれてからこれまでの20年間でぼくが見、ぼくを見たあらゆる人にありがとうございました。 * 外部を外部として受け入れる…

2012-05-28

旧サイト http://d.hatena.ne.jp/hiroki_yamamoto/