小説という霊の認識は、まるで偶然としてはできすぎた生命のように。――ポール・ド・マン、大江健三郎、生態心理学

本記事はnoteで投げ銭のかたちを設けつつ、置かれているものです。 小説という霊の認識は、まるで偶然としてはできすぎた生命のように。|hiroki_yamamoto+h|note A1 大江健三郎は、五〇年以上に及ぶ作家生活を通して、特異な小説技法を確立した小説家であ…

off/at

10年後の今日、午前4時。世界中が神さまの音という音に包まれて凍え死んでいたころ、彼らはわざわざ暖房の効いた小部屋から出て、給水塔すらないマンションの屋上に集まっていた。その9人の住人たちのうちのほとんどが、マンションに住みはじめてから一度も…

1992

引っ越してみて最初に気づいたのは、あの町に生まれた子どもがみんな、毎日あきることなく屋根の上を見つめていたということだった。 そのなかのひとりが、ある日、何かに気づいた様子で、家のなかへと入っていった。 子どものしゃべる声が、家のざらざらし…

大江健三郎を読むために/6つのメモ:『取り替え子(チェンジリング)』

取り替え子 (講談社文庫)作者: 大江健三郎,沼野充義出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/04/15メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 15回この商品を含むブログ (49件) を見る 1.『取り替え子』は、大江健三郎を模した作家、長江古義人を中心に書かれているも…

白石晃士『オカルト』

206日前にメモしたままほったらかしにされていたもの。オカルト [DVD]出版社/メーカー: クリエイティブアクザ発売日: 2009/07/24メディア: DVD クリック: 69回この商品を含むブログ (17件) を見る ローマ帝国で最初にキリスト教徒になったコンスタンティヌス…

第一幕 子どものころの少女と大人になった男の子の話が、ふたつの線路に挟まれることでようやくはじまる。時間は西暦2014年から、暑さと光の重みを勘違いするまで。

4年ぶりに歩いたすごく赤い草むらのわきの踏切で、「映画が撮れそうなんだよ」 とうれしそうなことを言うから、わたしはアカリが映画監督になってわたしがその映画を見るんだと思って、そうなればなにもかもがずっと忘れられずに世界に残ると思って、わたし…

ベンヤミンの歴史と大江健三郎の宇宙船

注:後日、新しくよいものを書きました。ヴァルター・ベンヤミン「歴史の概念について」 - describe, ベンヤミン・コレクション〈1〉近代の意味 (ちくま学芸文庫) 作者: ヴァルターベンヤミン,Walter Benjamin,浅井健二郎,久保哲司 出版社/メーカー: 筑摩書房…

公園

電車に乗っていたことだけが共通するとはいえ、時間も場所もまったく違うはずのぼくの前に、同じ出来事が生じるのだった。それは、一方が2012年、もう一方が2009年に、東京と愛媛の電車の座席にすわっていた両方のぼくの前にあらわれた。 夕方の4時半ごろ、…

発見について

小説において、重要なのは、「魂の発見」というか、魂を発見しないではいられない人間の能力の方じゃないか。対談「「聴き手」と「語り手」との共犯関係」いとうせいこう+渡部直己すばる 2014年 06月号 [雑誌]出版社/メーカー: 集英社発売日: 2014/05/07メデ…

S1

たった二千年前、ムクドリが冷たい風の年中吹く、せまい海の上にしか住んでいなかったころ、海では電車は船とともにしぶきをあげながら海面を渡り、太陽の光を反射して、プラスチックのように平坦に輝くしかなかった世界中の海にいつかは届くことになる波を…

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尊敬できるものを並べて示すのが一番の自己紹介であると教えてもらいました。 なるべく少なく。 以下順不同、随時更新 1. 水死 (講談社文庫) 作者: 大江健三郎 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2012/12/14 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (2件) を見…

2014-05-03

赤ワインの染みを抜くための夜中の洗濯と、くるりの「ハローグッバイ」を聞きながらこれを書くことになる。 都会の、みんなよい街として名前を知っているらしい街のヤマダ電機で、地方にはないような商品区分の階層をたどり、ぼくたちは目的のイヤホンコーナ…

h_2012_8 お給料明細裏に

シリアで女性ジャーナリストがしんだニュースをよみながら 朝のさわやかな音楽がかかって その人のお父さんが泣いた映像が流れた。その人のさいごにとった映像と、その人がえがおで「転んじゃった」といってジップロックにテープをいれているえいぞうも流れ…

こつん わにのビスケットをおとしてもゆうれいのいぬのこない三時

早稲田大学文芸ジャーナリズム論系の発行している雑誌「蒼生」に、「こつん わにのビスケットをおとしてもゆうれいのいぬのこない三時」という長い題名の短編小説を、掲載していただきました。絵も描いていいということだったので、絵も描きました。蒼生 | …

東京国際文芸フェス、大江健三郎、アレクサンダル・ヘモン

東京国際文芸フェスでなんども作家と小説のそれぞれに含まれた事実のあいだにある関係について話される。なんども。「母親が生の最後まで彼女の世話をした妹を介して私に伝えた、最終的な和解の言葉があります。私がこれまでに書いた土地の神話=民話宇宙に…

ニューワイド歴史学

せんべいミューージック(Web)を更新しました。 ニューワイド歴史学 このとき、いもりは博物館にもいた。鉱物たちの壁に敷き詰められている部屋のすみからすみまで、光を内側に閉じこめてどこかまっすぐな方向へ引き伸ばしたり、七色にしたりする何百種類も…

柴崎友香『わたしがいなかった街で』

(※)2012年6月に書きました。今日ではありません。 ここ最近、ぼくは「おもしろくない人の書いたものは結局おもしろくない気がする」とまわりの人に言うのは誤解を招くと思う。別にそれは天才がどうとかいう話じゃないのが伝わらない。物事の抽出と因果関係…

まちについての覚え書き、忘れる前に。

2月8日。街に大変な雪が降っていた。 雪の次の日は、雨音と子どもの追いかけまわる声が聞こえた。ドラえもんも、雪だるまも、公園にいた。なにもかもが平さを覆うように街に増えていた。なによりしなった枝が増えた。雪も風も一番強まるだろうと言われていた…

2000

ステゴサウルスの帽子をかぶった男の子は1998年に生まれ2016年に死んだ。これから先の人生がキーボードのように拾われていきますように――彼と仲のよかった1999年1月生まれの女の子は自分の14歳だったころに思いついてiPhoneのなかにメモしておいたその言葉を…

あのようなものにせっせとかかわっていないで、おやつをもらいました。⑴

目の前を走るザトウクジラが、立派な四本足でタクシーを二台踏み潰していく。男の子の乗る赤いきらきらした自転車は、蛇行するかばの格好に仮装した二トントラックが弾き飛ばし、男の子に直撃された信号機は、乾いた肋骨を両手でゆっくりと体重をかけつつ折…

新しいホームページと、公開した4つの小説について

新しいものとしてのホームページを立ち上げました。 hiroki_yamamoto+h これからしばらくを書けてぼくはこのページを拡張していくように考えています。 また、それにともない、4つの小説をそのサイト上で公開しました。 以下が4つです。 1つめ:pot hole …

白石晃士『ノロイ』

『ノロイ』は限りなくバラバラなシーンをその大枠としてのモキュメンタリーによって辛うじてつなぐ、そうして宇宙人と土俗的な呪い、超能力、ダムに沈んだ村、集団自殺、心霊動画……などの要素を混ぜ合わせる。その接続方法は、しだいに謎ときめいてくる。一…

2013-12-16

街は? 1.山-森という、幅広い時間に浸透している場所の、八合目より上を切り開き、平坦な土地にしたそこに設けられる、東京にある大企業が自分の商品としての家だけを建てるための新興住宅街 2.それが、新興住宅街の端に「むかしからあるもの」として残され…

(どうしても)ちっぽけなのっぽのたんぽぽ。ついでにわたしたちも、はるになると、しばしばいらしてください。

十六日に一度しか日本の上空を通過しない人工衛星おやすみが、幽霊を見た。 足下に広がるだだっ広い球体の、表面に群がっているという科学者たちが、人間の体の小ささに考慮して打ち上げた、惑星観測衛星たち。それは数ある宇宙機械の中でも、木々の発育や森…

2013-12-1

今日は月はじめらしく代々木公園の骨董市に行く。昨日は新しく丸眼鏡になった人を探そうとくるくるしたりそういうので起きたのが遅くなった。代々木公園がどこにあるのかを知らない。明治神宮という、原宿に近い場所なら知っている。そこから行くと、代々木…

2013-11-23

今のぼくの書く長編は、ひどくゆるい思考を日常として生きるために、無数のことがらがやんわりとつなげられていく。今生きることが書くことにつながるように書く。その期間、その分量が長ければ長いほど、体はその世界に入り、過去の自分から浴びせられる何…

シェイクスピア(h)

わたしはよく信じているよJeanne、あなたがわたしの息子と結婚したいということを。Jeanneの母は笑った。本当に仕方がない! 今や仲違いをしていた。Jeanはかわいい男で、とても優しい。彼は決してカフェには行かなかった。彼はあまりしゃべらない。彼は公証…

そのアウグスティヌスは、次のように書く準備をしながら、冬に降りる星空の細やかさに照らされつつ、夜中を歩いていた――こうして私は記憶と理解と意志を持っていることを私は記憶している。私が理解し記憶していることを理解している。私が意志し記憶し理解…

2013-10-20

幽霊がいる世界はきっと幽霊を見てもすぐに忘れてしまう世界だ。人が八十歳で死ぬ直前に生まれたとしても、それはそれとして生まれてから死ぬまでの新たな過去の系列が生まれている。因果律はほつれてまた固まる。なぜなら死への恐怖の強さはその対象への常…

hさんの先生にいわれたぶんしょう

「スサノヲはイザナキが黄泉の国から帰り、鼻をすすいだときに生まれた神で、同じ時に右目から生まれたアマテラスの姉弟にあたる。スサノヲは父であるイザナキに海を治めることを命じられるが、ははの国へいきたいといって泣いているばかりだったので追放さ…